前回は日立のLEDシーリングライト「まなびのあかり」を紹介しました。演色性(色の再現性)が高く、とても明るい、学習に適したLEDシーリングライトです。
今回は、「そもそも演色性ってナニ?」、「それって本当に必要なの?」、「デメリットもあるんじゃないの?」ということについて、簡単に説明したいと思います。
※この記事は2016年12月11日時点の情報に基づいています(2023年12月28日一部更新)
演色性とは
一般的に「演色性」と言う場合、正確には「平均演色評価数」のことを指します。R1~R8までの色(上表参照)の評価数の平均値のことです。ちなみにR9~R15までの色は特殊演色評価数と言われ、平均演色評価数には含みません。しかしながら特殊演色評価数のうち、特にR9(赤色)とR15(日本人の肌色)に着目されることも多々あります(参照:コニカミノルタ)。
では一般的に言われる演色性とは何かというと、「色の見えの忠実性」のことと言えます。ひるがえって、「演色性が高い」というのは「色の見えの忠実性が高い」、つまり「色を忠実に見せることができている」と言えます。極端な話、赤いリンゴに青い光を当てたらリンゴは赤く見えませんが、演色性が高い光で照らせばリンゴ本来の色が見えるというわけです。
一般的にLED照明は演色性が低いと言われがちです(特に蛍光灯との比較において)。上表は従来LED光源と高演色の山田照明Z-80PROの演色性を比較したものですが、ここでも従来LED光源はRa70強程度となっています(対してZ-80PROの演色性はRa97)。ちなみに技術的には既にLED照明でもRa99を実現できているそうです。
JIS(日本工業規格)では、”Raが80未満の光源は、仕事したり、長い間滞在する室内では使用しないことが望ましい”とされています(引用:パナソニック)。演色性についてはRa80未満か以上かということがひとつの指標となると言えそうです。
高演色のデメリット
高演色であれば色を忠実に表現できるわけですから、子供の色彩感覚を正確に養うためには結構なことだと思います。ただ、これが良いことばかりかと言うとそうでもありません。
演色性を高めると光束が少なくなる
蛍光灯でもLEDでも同様ですが、”演色性を高めるほど光束が低くなる特性があるため、消費電力に対して得られる光束値が小さくなるというデメリット”があります(引用:電気設備の知識と技術)。
LEDデスクライトは昨今、照度競争に陥っているという経緯があることを踏まえれば、光束値を小さくしてまで演色性を高めるという方法は、メーカーとして難しいと思われます。また、演色性を高めることによって少なくなった光束を補うにはLEDの数を増やす必要があり、低価格でなければLEDデスクライトは売れないという状況ではメーカーとしても二の足を踏まざるを得ないことでしょう。
一方で、山田照明の「Z-80」(Ra80)と「Z-80PRO」(Ra97)を比較すると、いずれも消費電力は11.0Wであるにもかかわらず、Z-80は直下照度が1,493ルクス、Z-80PROは同じく1,600ルクスとなっています。ただし、これは光束(ルーメン)ではなく照度の比較です。照度分布図を比較するとZ-80のほうがムラの少ない明かりであることから、やはりZ-80PROは高演色であるがために光束が少ない可能性は感じます。しかし実際のところ、高演色とすることで光束にどの程度影響が出るのかはよく分かりません。
高演色LEDは高価格になってしまう
実際問題として消費者にとってもメーカーにとっても大きいのは、光束が少なくなることよりも照明器具の価格が高くなることではないかと思います。Z-80とZ-80PROの価格を比較しても然り。日立の「まなびのあかり」にしたって、絶対値としては決して高価とは言えませんが、あのショボいデザインにしては高価です。
高価格でも高演色のほうが売れるとなればメーカーも本腰を入れるかと思いますが、現状では高演色よりも低価格のほうに消費者の意識は向いているのでしょう。
色を忠実に見せることに対する議論の余地
なお、そもそもの話として、色を忠実に見せることが良いことかどうかという議論の余地があるようです。前述のパナソニックのページの説明でも、”例えば、人間の顔色は少し本来の色彩よりもややピンク系にずれている方が好まれますが、黄色もしくは緑色にずれた場合には非常に不快に見えます。”とあります。つまり、「色を忠実に見せること」と「(実際よりも)キレイに見せること」はまったく別ということです。
そう考えると、東芝の「キレイ色」は誤解を招きかねない商品名ですね(笑)それはともかく、こういった論争は、アンプやスピーカーでも言われることです。一昔前から、重低音を重視した機器が多くなっているじゃないですか。そういう機器でピアノの生演奏CDを聴いても、実際のピアノの音とは程遠くなってしまいます。また、男性でも女性でも「ありのままで~♪」顔も洗わずスッピンで外に出ることは必ずしも好ましくないですよね(笑)
もっとも、ダイニングテーブルの上の照明器具の話ならともかく、学習用としては高演色であることに越したことはないと個人的には思います。他方で、「学習机は高い」と言われる現状、LEDデスクライトにまでお金をつぎ込む余裕がないというのもまた現実です。難しいところですねー。
学習机メーカー各社の対応状況
学習用LEDデスクライトに高い演色性が必要かどうかは、残念ながら私が調べた限りでは分かりませんでした。
演色性が高いと謳っているLEDデスクライトはいくつかありますけどね。でも、商品の広告文なんてあまり真に受けるのもどうかと思うじゃないですか。そこで、学習のことは学習机やデスクライトのメーカーが一番よく分かっているだろうということで、各社の対応状況を調べてみました。
メーカー | Ra |
---|---|
コイズミファニテック | 85 |
イトーキ | 記載なし |
カリモク家具 | 82~85 |
浜本工芸 | 記載なし |
くろがね工作所 | 記載なし |
オカムラ | 80以上 |
山田照明 | 70~97 |
パナソニック | 83~85★ |
ツインバード | 70~90★ |
興和 | 80以上★ |
※2016年11月12日現在 ★一部商品
上表をご覧いただければ分かる通り、現状では各社の対応はマチマチという感じです。裏を返せば、それほど重要な指標とは考えられていないのだと思います。
また、片っ端から調べた限りでは、ベッドサイドに置くようなものを除いてデスクライトとして販売されているものは概ねRa80以上となっているものと推測されます。それでも個人的には、演色性についてカタログ等に記載がないメーカーは記載して欲しいと思いますね。
今回はもともと、蛍光灯とLEDの比較に関して記事を書くつもりで調べ始めました。これらの比較を簡単に説明することはできるんですけど、説得力のある説明をしようとするとこれがなかなか難しくて。
というのは、蛍光灯とLEDを比較したデータが古いものばかりなんです。その中のひとつに演色性に関するデータがあったのですが、一昔前はLEDと言えば蛍光灯よりも演色性に劣るというのが通説だったものの、現在ではその限りではないのです(カネさえ出せばLEDでもRa99は可能なわけですからね)。
その延長線で、「そもそも演色性とは何ぞや?」という疑問を感じたところから今回の記事となりました。今回は私個人で調べたものをまとめたかたちですが、今後はメーカー各社にも協力を仰いで掘り下げていこうと思っております。
コメント 皆様からご質問・ご意見など