
学習机は引出しが命です。そう言える理由は主に2つあります。
まずひとつは、引出しがあれば片づけやすいからです。教科書などを棚に片づけるのはさほど難しくありませんが、文房具などの小物は厄介です。引出しがあればキチンと仕切らなくても放り込むだけで片づけることができます。逆に言うと、引出しがなければ片づけにくいのです。
また、引出しの数が揃っていても、スムーズに開閉できなければ上手く活用できません。せっかく引出しがあるのに、開け閉めするのが億劫になって、出したモノを戻さなくなってしまうのです。
スムーズに開閉できる引出しを備えた学習机ほど価格は上がります。しかし、同価格帯の学習机でもスライドレールのグレードはマチマチです。どうせなら、低価格でも品質の高いスライドレールを使っている学習机を購入したいですよね。
というわけで今回は、学習机の引出しに使われているレールにはどんなものがあるかを見てみたいと思います。
※この記事は2025年4月16日にリライトしました
学習机の引出しのレール
シングルスライドレール(2段引きレール)
学習机の引出しに使われているスライドレールでもっともポピュラーなのは、上写真のシングルスライドレールです。後述する3段引きレールとの対比で2段引きレールと呼ぶこともあります。
多くの学習机で使われているものの、その品質はピンキリです。高品質なものは音もなくヌルーッと引けるのに対し、それ以外はザーッと音が鳴ります。残念ながら、学習机では圧倒的に後者のほうが多いです。
シングルスライドレールはスチールでできています。そのため比較的丈夫と言えますが、体重を乗せると変形してしまう恐れがあります。一度変形してしまうと元には戻せません。
また、シングルスライドレールにはボールベアリングが使われています。およそ5年おきにグリスアップしないと、ベアリングの球が抜け落ちて開閉できなくなる恐れがあります。レールが変形したり、ベアリングの球が抜け落ちた場合は、スライドレールを交換することになります。
フルスライドレール(3段引きレール)
フルスライドレールは金属のレールが3本使われているので3段引きレールとも呼ばれます。学習机ではワゴン最下段の引出しに使われていることが一般的です。また、コイズミファニテックの学習机のほとんど、大商産業の一部モデルは、全ての引出しに採用されています。
フルスライドレールはシングルレールと同様にスチール製でボールベアリングが使われています。そのため、シングルレールと同様にグリスアップが必要ですが、シングルレールと比べて高さがあるので変形しにくいと言えます。
また、フルスライドレールはその名が示す通り、引出しを奥までを引き出せることがメリットです。ただし、ワゴンに用いる場合は引出しを開けたときに重心が手前に偏ってワゴン全体が傾く可能性があるため、引出内箱の奥行はシングルレールを用いた場合よりも浅く作られる(=収納量が減る)ことが一般的です。なので、この点においては必ずしもフルスライドレールのほうが優れているとは言い切れません。
よって、私がフルスライドレールを評価するのは、あくまでシングルレールに比べて変形しにくいという点です。シングルレールに比べてスムーズに開閉できることが多いと言えるところはあるものの、取り付けの精度が良くない場合はまったく開閉できないことや、開閉に力を要することもあります。以前のアクタス「ヴァリオ」がまさにそのパターンでしたが、現在はスガツネ工業製のレールに変更されて逆にめちゃぐちゃスムーズに開閉できるようになっています。
ローラー式スライドレール
ローラー式スライドレールはボールベアリングではなく、ナイロン製のローラーが用いられます。安価ながら軽い力で開閉できることがメリットです。また、引き出してから軽く持ち上げるだけで引出しを外すことができるということもメリットと言えるでしょう。
しかしながら、大手メーカーの学習机にローラー式のスライドレールが使われることは皆無です。その理由は、勢いよく開くため危険なうえに、ワゴンに用いた場合は引出し全段がすべて同時に引き出された状態になりやすく、ワゴンが手前に倒れる危険性があるからです。
また、勢い良く閉まるので衝撃が伝わりやすく、壊れやすいとも言えます。よって、大人が使うならともかく、子供が使う学習机に用いるのは適切とは言えません。
樹脂製レール
ポリプロピレンなどのプラスチック製のレールは完全組立式の安い学習机に用いられることが一般的です。しかし、2024年度あたりから大商産業の低価格帯の学習机で採用されることが増えています。
プラスチックと言っても、そうそう簡単に折れるものではありません。また、大商産業の場合は引出内箱側にスチール製の溝が取り付けられているので、それなりにスムーズに開閉することはできます。しかしながら、ベアリングを用いたスライドレールと比較すれば耐久性や開閉のスムーズさで劣ることは間違いないので、できれば避けていただきたいというのが率直なところです。
ちなみに、大商産業以外では引出内箱側の溝がパーティクルボード剥き出しだったり、樹脂フィルム貼りであることが多いです。パーティクルボード剥き出しの場合は見た目が悪いだけでなく、摩擦抵抗が大きくなります。それに比べると樹脂フィルム貼りは表面が滑らかで見た目も悪くないですが、ひとたびフィルムが破れてしまうと引出しの開閉ができなくなってしまう恐れがあります。
木桟

木桟は木製のレールです。一般的には上棚の小引出しに用いられることが多いですが、ワゴンやデスク本体に用いられることもあります。
なぜ小さな引出しに用いられることが多いかと言うと、木材はボールベアリングなどに比べると摩擦抵抗が大きく、スムーズに引き出せるように作るのが難しいからです。引出しが大きくなればなるほど、高い加工精度が要求されます。
そのため、木桟が用いられるのは基本的に国産デスクに限られます。中国製の無印良品「木製デスク オーク材」は例外と言えますが、取付け精度が低いので今にも引出しが外れそうな状態になっている展示品が散見されます。
高い加工精度が求められるうえ、摩擦抵抗を抑えるために引出内箱に良質の内部材を使う必要がある木桟を用いる理由は、コストを下げるためではなく、後述のレールレスと同様に変形するリスクやグリスアップの必要性をなくすためです。
レールレス
レールレスは引出しをスライドレールで支えるのではなく、大底(おおぞこ)という板で下から支える構造です。そのため丈夫で狂いが生じにくい一方、コストが掛かるうえ、高い精度が求められます。
引出しにはスライドレールが付いているのが当然で、付いていないものは良くないと考える方もいらっしゃると思います。しかし、それはまったくの誤解です。高級な婚礼タンスの引出しに金属製のスライドレールが付いていないのと同様、浜本工芸などの高級デスクの引出しの多くは金属製のスライドレールは付いていません。
金属というのは頑丈ですが、過剰に力を加えると変形してしまいます。また、中に入っているベアリングにはグリスを塗ってメンテナンスする必要があります。ですから、高い精度で引出しを作ることができれば、スライドレールはないほうが良いのです。
ただし、だからと言ってスライドレールが入っていない引出しがすべて良いというわけではありません。精度が低いのに引出しにスライドレールが付いていないのは最悪です。分かりやすく言うと、スライドレールを使っていないのは高級品と安物の両極端に存在するのです。
以上、学習机に使われる一般的なスライドレールを紹介しました。この記事をご覧いただいたうえで店頭で学習机の引出しをチェックしていただければ、違いが分かりやすいと思います。
ただし、引出しのスライドレールをチェックするうえで大切なのは、どういう種類であるかよりもどれだけスムーズに開閉できるかです。スムーズに開閉できるものほど耐久性が高いと思ってもらって良いでしょう。
なお、価格が手頃なものほど当たり外れが多いです。そのため、色違いで並んでいる2台のデスクの片方はスムーズでも、もう片方は固くて開かないということもあります。同じデスクを2ヶ所以上の店舗で確認した場合も同様のことが起こり得ます。
あまりシビアに見過ぎても疲れるので、ほどほどでOKです。少なくとも候補が決まったら、その引出しのスムーズさがいかほどかは確認しておくようにしましょう。
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