コロナ禍では巣ごもり需要で家具がたくさん売れました。これは日本に限らず米国も同様で、2019年から2021年の間に40億ドル超の家具が販売されたと見られています。
しかしながら、喜ばしいことばかりではありません。その多くは10年ももたない「大量生産された安価なファストファニチャー」だと考えられています。米国人の家具廃棄量は1960年以降450%増加しており、ファストファニチャーの大量廃棄が社会問題になっているということです。(『家具新聞』から一部引用)
もっとも、誰しも最初から使い捨てにしようと思ってIKEA(イケア)の家具を買うわけではないはずです。ペットショップで買った犬猫は簡単には捨てられませんが、安物の家具なら気軽に捨てられるというだけのことだと思います。もしくは、そもそも期待したほどの耐久性がなかったか、そんなことすら考えずに買っていたということでしょう。
ともあれ、家具は被害者にすぎません。では、悪いのは売った人でしょうか。それとも買った人でしょうか。知らなかったら許されるという話でもなく、これは非常に難しい問題だと私は思います。
それはさておき、IKEAから新しい机と椅子が発売されたので見て参りました。今回はその結果をレポートしたいと思います。
※この記事は2023年2月1日時点の情報に基づいています(2024年4月16日一部更新)
BERGLÄRKA(ベリレルカ)
まずご紹介するのは、2023年に入ってから販売されたばかりの「BERGLÄRKA(ベリレルカ)」。先に申し上げておくと、これは高く評価できるところがいくつもある一方で、重大な欠陥もあります。
傾斜天板採用
ベリレルカは天板の右側が傾斜できるようになっています。10度、20度、30度と、3段階で調節することができ、もう1段階持ち上げるとロックが解除され、自動でゆっくりと天板が閉じていきます。そのため、子供が誤って手を挟んでしまう危険性は少ないと思います。
上写真の天板は120cm幅のバーチ(カバ)無垢です。細かい材木を接ぎ合せたフィンガージョイントですが、マットな質感で手触りも良いです。スチール製の反り止めもちゃんと入っています。なお、MDF合板のホワイト色もあり、バーチ無垢よりも価格が安いです。
後述するピプレールカと異なり、天板の左側が傾斜せず平面を残したままになるので、本や文房具などを常駐させたままでもOKなのがメリットと言えます。
手回しで天板の昇降が可能
天板の右下(もしくは左下)のハンドルを手でグルグルと回すと、天板の高さを昇降することができます。電動式に比べると面倒ですが、電気も配線も要らないし、軽量でコストも安く済みます。もちろん、子供の力でも問題なく回すことができるはずです。
天板の傾斜と昇降、これら2つがベリレルカの最大の目玉機能と言えるでしょう。
ターコイズ色も素敵
ベリレルカは120cm幅だけでなく、100cm幅もあります。100cm幅の天板はMDF合板のみで、ホワイト色とターコイズ色が用意されています。そしてこのターコイズ色が写真で見るよりも良い色だと個人的には感じました。
スチール板の端部処理も丁寧
ベリレルカの上棚の右側はスチール製の有孔ボードで、フックなどを引っ掛けたり、マグネット収納を活用することができます。
実物を見るまではそのスチール板の端部の処理の仕方に不安があったのですが、子供が触っても手を怪我することがないように丁寧に処理されています。
前後の揺れがヒドイ
ベリレルカは総じて高く評価できるのですが、一方でダメ出ししなければならないところもあります。それは前後の揺れがヒドイということです。
左右に揺れる机は少なくないですけど、前後に揺れる机は珍しいです。前後に揺れると、子供が椅子を出し入れする度に、もしくは座って前のめりになる度に、奥の壁にゴンゴン当たるでしょう。消しゴムでゴシゴシ消すときも同様です。なので、机のメーカーにとってはもっとも忌むべきところです。
T字脚、しかも昇降式なので、そもそも構造上の欠陥と言えます。それを知ったうえで使い捨てにするか、知らなかったから私は悪くないと言って捨てるか、というところですかね。
PIPLÄRKA(ピプレールカ)
ベリレルカによりも早く、2022年10月頃に発売された「PIPLÄRKA(ピプレールカ)」も傾斜天板と天板昇降機能を備えたデスクです。
つっかえ棒で天板を傾斜
しかしながら、ピプレールカの天板を傾斜させる仕組みは完全手動です。天板の奥を持ち上げながら、その下にある左右のつっかえ棒を起こして天板を固定する仕組みになっています。なお、天板の斜度は20度のみ1段階です。
手を挟む心配がない安全な構造
こういう構造だと、天板の下に子供が手を挟むんじゃないかと心配になる人もいると思います。しかし、ピプレールカはフレームと天板の間に手を差し入れても挟むことがない構造になっています。
つっかえ棒と天板の間に手を差し入れるとさすがに指を挟みますが、子供の手の大きさを考えると、その可能性は低いと思われます。
ただ、机上面にこんな大きな隙間があると、ペンなどを落としてしまうことも少なくないでしょうね。
ボルト位置調節で天板昇降
また、天板の高さを調節するためには脚部フレームのボルトを抜いて固定し直す必要があります。天板昇降式デスクの多くが同様の仕組みですが、ベリレルカに比べると面倒ではあります。一応、5段階で天板高を調節できます。
横揺れする
ベリレルカは前後に揺れるところが問題でしたが、ピプレールカはそのようなことはありません。ただ、横揺れがします。IKEAは机は揺れたほうが子供が楽しいと考えているのでしょうか。
ともあれ、100×70cmサイズのベリレルカ(MDF)が税込24,990円なのに対し、80×63cmのピプレールカは同14,990円です。できるだけサイズが小さいほうが良いと考える場合は除いて、手軽に天板を傾斜させたり昇降できるベリレルカのほうが優れているのではないかと思います。ベリレルカのほうが上棚の収納量も多いです。
DAGNAR(ダグナール)
「DAGNAR(ダグナール)」はピプレールカの発売に合わせて投入された、昇降デスクに対応可能な学習椅子です。昨年10月にいち早く確認したのですが、その場で商品が撤去され、商品ページも速やかに削除されました。しかしながら、ベリレルカの発売とほぼ同時期に、何事もなかったように復活しています。何かしら不具合でも見つかったのでしょうか。もっとも、現在は問題が解消されているものと思われます。
高さ調節が簡単な構造
ダグナールは非常に良くできています。傾斜した支柱に座面と背もたれが取り付けられており、それぞれボルト1本で高さ調整が可能です。また、座面下のレバーを操作することで、座面を前後に調整できます。
また、背もたれの角度は固定されておらず、無段階で調整可能です。脚部は4本脚で、足を床に置くときに邪魔にならない形状になっているところも素晴らしいと思います。
座ると固定されるキャスター
キャスターは椅子に座ると固定されるようになっています。学習用としては当然の機能ですが、安全に配慮されていると思います。
キャスターの材質については明示されていないものの、おそらくウレタン製でしょう。カーペットを敷かなくてもフローリングを傷める心配がない一方、耐用年数は一般的に5年前後となります。もっとも、IKEAの家具で5年も使えたら御の字かもしれません。
なお、IKEAではデスクとチェアのセットが販売されていますが、別に安くなっているわけではありません。デスク天板と脚のバラ売りについても然り。あくまで「このセットがオススメ」と提案しているのに過ぎないのでしょう。
GUNRIK(グンリーク)
「GUNRIK(グンリーク)」はダグナールに肘置きが付いた椅子です。また、座面と背もたれには高反発ウレタンに加え低反発ウレタンを使用し、ボリューミーな座り心地に仕上げています。
肘置きは後ろに倒すことで天板の下に収めやすくすることも可能です。それでいてダグナールとは3千円しか違わないのですから、普通はグンリークのほうを選ぶと思います。
なお、いずれもイエローとターコイズの2色で、張地はポリエステル製です。カバーを取り外して洗うこともできるようです。
誤解を生じる高さ調整の目安表示
ダグナール、グンリークともに、非常に良くできていると思います。これは日本の学習机メーカーも見習って欲しいくらいです。
ただ、支柱の座面高さ調節の目安として表示されている身長は余計です。椅子単体で見れば、確かに身長が高い人ほど座面は高く、逆に子供なら座面の高さが低くなるのは当然です。しかしながら、座面が29~47cmの間で調整可能なのに対し、ベリレルカの天板は52~75cm、ピプレールカは50~74cmです。一般的なデスクの高さと最大値は大きく変わらず、表示に合わせて椅子の座面高を設定すると、特に大人は相対的にデスク天板が低すぎることもあろうかと思います。
以上、IKEAの新しい学習デスクと学習椅子をそれぞれ2つずつ紹介しました。デスクについては揺れることと引出しがない点が気になるものの、傾斜天板や昇降機能に興味がある方は検討の余地があるかもしれません。未就学児から小学生くらいまで使ってまた買い替えれば良いと考えるならアリでしょう。
椅子についてはほとんど手放しで評価できると思います。デザインや色の好みはあるものの、天板昇降式デスクだけでなく、IKEA以外の学習机にセットしても良いのではないでしょうか。ただし、脚部の幅が58cmと広いので、ワゴンをセットしない状態か、110cm幅以上のデスクに合わせる必要があります。
ともあれ、4商品とも想像していたよりずっと良かったです。IKEAに行くことがあれば、是非一度ご覧いただければと思います。
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